GUIとCUI

分子モデリング計算を行うには、コンピュータに分子のイメージを正確にコンピューターに入力する必要があります。以前はCommand Line User Interface(CUI)といってエディタープログラムを用い全て数値で入力していました。  形式は計算手法により直交座標系であったり、回転座標系が指定されていたりでプログラムによって異なります。
下はアラニンを計算するMOPAC形式の入力ファイルです。最初の行には計算の内容(用いるハミルトニアン、オプションなどのキーワード」、2行目と3行目はファイル名とコメント、4行目から各原子の座標や、原子名、最適化の条件などを入力します。入力するデータの場所は入力ファイルの行、カラムで厳密に決められており、スペースの数など一つでも間違えるとコンピュータは間違った構造を認識したり、分子構造を完成できずにエラーを起こしてしまいます。間違えていないつもりでの行がずれていたり、命令の場所が間違っていたりで完成させるのは結構大変でした。簡単な分子ならともかく、少し複雑な分子になりますと、各原子の座標の決定が非常に大変でした。時には、組み立てた分子模型を方眼紙の上において、X,Y,Zの三方向から各原子の座標を読み取り作成したそうです。当時は入力ファイルを作成するだけで大変な作業でした。

 


 
 コンピュータのソフトウェア、ハードウェアの発達に伴い、分子模型を組み立てるかのようにコンピュータ画面上で目的分子を組み立てるだけで、保存するときに目的の形式で入力ファイルが保存されるようになり、研究者は入力ファイル作成の苦労から解放されました。このような方式をGraphic User Interface(GUI) といいます。入力ファイル作成に必要な時間は比較にならないほど短縮されました。現在でも、入力ファイルそのものはCUIのころとあまり変わりません。エディターでファイルを開いてみると、多くの場合その内容が確認できます。入力ファイルについては計算のファイル形式を変換するBabel(http://smog.com/chem/babel/)といったファイル形式を変換するソフトもあります。
 現在のソフトウェアでは、保存時にプログラムを選択することにより複数の計算方法に対応できるようにファイルが作成されます。これにより、プログラム間でのデータの移動が容易になりました。

 


 
以前は出力ファイルもCUIでした。数値の並んだ出力ファイルから計算結果を議論していました。1980年代には、計算結果を読み込み、コンピュータ上で分子を可視化できるようになりました。現在は入力ファイルを作成したプログラムで計算し、その結果も同じプログラム上で解析できるようになっています。そのようなプログラムでの出力ファイルには、配色情報などプログラムごとに異なったが含まれており、また、ファイルサイズを小さくする工夫などが加わり、逆にエディタープログラムでの解析はほとんど不可能です。
GUIとなることで、分子モデリングは驚くほど身近になりました。しかし実際の計算内容を実感する機会が少なくなってしまいました。
便利になった分ブラックボックス化して、計算結果の評価は、逆に難しくなっているのかもしれません。